旦那闘病記。その6
朝。
ICUの朝の面会では、旦那はまだ痛みがあるようで、しきりに痛みを訴える。吐き気はない。
「迷惑かけてるな、ごめんな。会社の人にも悪いことした」
「自分でちゃんと謝らないとね。退院したら」
待合室で、ぼんやりと景色を眺めていた嫁に声をかけてきたのは、主治医だった。
「大丈夫ですか」
「……正直、頭が追いつきません」
「そうですよね」
続いた会話は手術で起こりうるリスクについて。
動脈瘤に到達する前に脳にダメージを与えてしまう可能性がある。出るとするならばこんな障害だ。それを丁寧に話をして、主治医は言った。
「ご主人も、頑張ってますから。僕らも諦めませんから」
手術準備室の前まで、旦那に付き添った。
嫁が差し出した手を、指先に計測機械をつけたまま旦那が握る。
「いってらっしゃい」
嫁は笑顔で、見送った。
最初の出血の影響で腫れている脳を少しずつ動かし、主要な神経や血管を避けながらの手術なので、順調に進んでも4時間は超える。
でも、脳の状態によってはそのまま閉じることもある。
あれほど時計を何度も何度も見た日は、未だにない。
まずは、そのまま閉じる、ということがないように。
それだけを待合室で祈り続けた。