旦那闘病記。その11
その日、旦那は朝から落ち着かなかった。
発症から2週間。
主治医から、脳血管攣縮のリスクが高いと告げられていた期間を過ぎて、現状確認のための精密検査が行われた。
頭の痛みは食後の痛み止めだけでコントロールできるほどに収まっていたし、
その日の朝には、毎日2㍑を超えていた点滴も外された。
検査から帰ってきた旦那は、落ちつかない。
スマホを開いては閉じ、開いては閉じる旦那に、
「あのさ。渡したいものあるんだけど」
「ん?」
嫁は自分の薬指から、結婚指輪を外して渡す。
「検査済んだら渡そうと思ってたから」
「あ、俺のだ」
入院すぐ、旦那の指輪は外され、ほかの貴重品と一緒に嫁に届けられていた。
嫁は自分の指輪ではなく、旦那の指輪を日常につけていて、退院が決まれば渡そうと決めていた。
指輪をはめて、旦那がポツリと言う。
「ようやく帰れそうだね」
「そう、だね」
検査の結果、経過は良好。
翌日の退院が、決まった。